大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成11年(ラ)1841号 決定

抗告人(債権者)

株式会社ゴルフフレンド

右代表者代表取締役

宮村國治

右代理人弁護士

高山征治郎

亀井美智子

中島章智

高島秀行

石井逸郎

楠啓太郎

宮本督

吉田朋

岩本憲武

大村健

相手方(債務者)

髙井優

右代理人弁護士

松尾栄蔵

岡田英之

吉野正己

菊田行紘

藤井基

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一  本件抗告の趣旨及び理由

一  抗告の趣旨

1  原決定を取り消す。

2  相手方は、相手方とアサヒ開発株式会社(以下「アサヒ開発」という。)間の東京地方裁判所平成一〇年(ワ)第一一九二一号保証金返還請求事件の執行力ある判決正本に基づき、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)内の金銭に対し強制執行してはならない(以下「本件仮処分申立て」という。)。

3  当審における予備的追加的申立て

相手方は、前記2の執行力ある判決正本に基づき、本件建物内の別紙クラブハウス一階平面図①所在のレジ及び手提げ金庫、同②及び③所在の金庫並びに④所在の手提げ金庫二個(番号「一三〇一九七」及び「二八〇六八八一〇」の中の金銭に対し強制執行してはならない(以下「本件予備的申立て」という。)。

4  本件手続費用は、原審及び抗告審とも相手方の負担とする。

二  本件抗告の理由は、別紙「即時抗告申立書」、「抗告理由書」、「抗告理由補充書および抗告の変更申立書」並びに「主張書面」(各写し)記載のとおりである。

第二  当裁判所の判断

当裁判所は、本件資料を検討した結果、仮処分の方法により確定判決に基づく強制執行を停止することは許されないと解するものであり、また、抗告人の本件仮処分申立て及び本件予備的申立ては、いずれも被保全権利の疎明がないから、これを却下した原判決は結論において相当であると判断する。その理由は以下のとおりである。

一  事実関係

本件記録中の疎明資料によれば、以下の事実を一応認めることができる。

1  アサヒ開発は、ゴルフ場の建設及び経営等を業とする株式会社であり、栃木県栃木市小野口町〈番地略〉所在のあさひケ丘カントリークラブを経営管理していた。他方、抗告人は、平成一〇年八月一一日に設立されたゴルフ場の運営、管理等を業とする株式会社であり、同月一九日、アサヒ開発との間において、同社が抗告人にあさひケ丘カントリークラブの営業を委任する旨の経営委託契約を締結した。右の契約によれば、抗告人は、あさひケ丘カントリークラブの営業を行うために必要な諸経費を負担する一方、アサヒ開発は、抗告人に対し、同クラブの施設等を無償で使用させるとともに、総売上額の七二パーセントを報酬として支払うこととされた(甲一、二の1)。

2(一)  相手方は、昭和六一年三月一日、あさひケ丘カントリークラブの正会員の募集に応じ、アサヒ開発と入会契約を締結し、アサヒ開発に資格保証金七〇〇万円を支払った(甲二〇)。

(二)  相手方は、平成一〇年四月二〇日、(一)の入会契約を解除するとともに、資格保証金の返還を請求し、その後、アサヒ開発を被告として、右資格保証金の返還請求訴訟を東京地方裁判所に提起したところ、平成一一年二月二六日、アサヒ開発に対し、七〇〇万円及びこれに対する平成一〇年五月八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を命じる仮執行宣言付き判決(以下「本件判決」という。)が言い渡され、本件判決は確定した(甲二〇、二二)。

(三)  相手方は、平成一一年三月二六日、宇都宮地方裁判所栃木支部執行官に対し、本件判決を債務名義とし、目的物の所在場所を栃木市小野口町〈番地略〉所在の「あさひケ丘カントリークラブ」として動産執行の申立てをした(乙一〇)。

(四)  宇都宮地方裁判所栃木支部執行官は、(三)の申立てを受け、平成一一年五月八日、あさひケ丘カントリークラブ内の本件建物において、現金二三三万円を差し押さえ、これを相手方の代理人に交付した(甲二二)。

3  抗告人は、平成一一年五月一四日、本件建物内の金銭は自己の所有又は占有に属すると主張して、本件仮処分申立てをし、さらに、同年九月三〇日、当審において、本件予備的申立てをした。

二  確定判決に基づく強制執行の停止を求める仮処分の可否

抗告人は、確定した本件判決に基づく強制執行の禁止(停止)を求めているが、確定判決に基づく強制執行を停止することのできる場合は、民事執行法三九条が制限的に列挙しており、強制執行の停止を命ずる旨を記載した裁判(同条一項六、七号)の例も、民事訴訟法及び民事執行法が個別具体的に規定しているから、右の場合を除き、一般的に仮処分の方法により強制執行を停止(禁止)することは許されないと解すべきである(最高裁昭和二六年四月三日第三小法廷判決・民集五巻五号二〇七頁参照)。そうすると、本件判決に基づく強制執行の禁止を仮処分の方法により求めようという抗告人の本件仮処分申立て及び本件予備的申立ては、主張自体失当というべきである。

三  被保全権利の疎明

1  本件仮処分申立て

(一)  抗告人は、本件建物内に存する金銭の所有権、占有権による妨害排除請求権(所有権については所有権確認請求権を被保全権利とする仮処分命令が認められるべきである。)に基づき、相手方の強制執行を禁止する権利があると主張するものである。

しかし、抗告人が本件仮処分申立てにおいて禁止を求めているのは、将来、本件建物内に存するであろう金銭に対する相手方の強制執行であるが、強制執行の時点において、抗告人がどれだけの額の金銭を取得し、どれだけの金銭を本件建物内に保有するかは全く不明であるし、場合によっては金銭が全く存在しないこともあり得る。このように、将来抗告人が取得するかどうか、又は、どれだけ取得するか明らかでない不確かな金銭の所有権ないし占有権を被保全権利として、本件判決を債務名義とする相手方の強制執行の事前禁止を求めるのは相当でないというべきである。

(二) これに対し、抗告人は、集合動産の譲渡担保権に基づく第三者異議の訴えを認めた最高裁昭和六二年一一月一〇日第三小法廷判決(民集四一巻八号一五五九頁参照)を掲げ、本件建物内に存する金銭も、右にいう集合動産であるから、第三者異議の訴えと同様の本案訴訟を提起することができることはもちろん、強制執行の禁止を求める本件仮処分申立てを認めるべきであると主張する。

しかし、そもそも、抗告人は、アサヒ開発等との間において、本件建物内に存する金銭についていわゆる集合物譲渡担保権の設定を受けているものではない上、右の判例は、目的動産の種類、量的範囲及び所在場所等により特定される場合、当事者間において、将来譲渡担保設定者が所有することになるであろう商品についても、集合物として譲渡担保の対象とすることができることを明らかにしたものであり、少なくとも、譲渡担保権者が第三者異議の訴えを提起した時点で、現実に存在している集合動産につき占有を取得した場合には、譲渡担保権者として現実に右動産に対して行われた強制執行を排除することができることを判示しているものである。これに対し、本件は、集合動産を目的とする集合動産譲渡担保権設定当事者間の合意による集合物の特定という問題とは全く無関係であるし、本件仮処分申立て時に金銭は現実に存在しておらず、抗告人が将来取得するであろう金銭の所有権ないし占有権に基づいて、一般的に確定判決に基づく強制執行の禁止を求めることができるか否かを問題とするものであるから、事案を異にするといわなければならない。したがって、右の集合動産の譲渡担保権に基づいて第三者異議の訴えを認めた判例を援用し、将来取得する金銭の所有権ないし占有権に基づき、確定判決に基づく強制執行の禁止を求めることができるとする抗告人の主張は、たやすく採用することができない。

(三)  また、抗告人は、動産執行の対象として金銭が差し押さえられた場合、直ちに執行官から執行債権者に金銭が交付され、執行手続が即時に終了してしまうため、債務名義上の債務者でない第三者は、その占有し所有する金銭に対する違法・不当な強制執行に対し、第三者異議の訴え又は執行異議の申立てに伴う強制執行停止によって対抗することはできないから、本件のような金銭の所有権ないし占有権に基づく強制執行禁止の仮処分を認めなければ、金銭の所有権ないし占有権に対する法的保護は、他の動産より著しく弱いものになり妥当ではないと主張する。

しかし、金銭は、一定量の価値の担い手という特性を持ち強制通用力を有するから、動産執行の手続において直ちに債権者に交付されるのは当然のことであり、それによって、換価手続に時間を要する他の一般動産に比べ、執行債務者に事実上不利な結果が生じたとしても、金銭の特性に照らしやむを得ないことといわなければならない。結局、金銭に対する違法・不当な強制執行に対する第三者の保護は、別途執行異議(民事執行法一一条)、不当利得返還又は損害賠償を求めることなどによるほかない。

(四) よって、抗告人は、将来取得するであろう金銭の所有権ないし占有権を被保全権利として、相手方の強制執行の禁止を求めることはできないと解すべきであるから、本件仮処分申立ては、被保全権利の疎明がないということになる。

2  本件予備的申立て

本件予備的申立ては、本件仮処分申立てにおいて本件建物内とされた金銭の所在場所を、本件建物内に所在するレジや金庫に限定するものであるが、抗告人が将来取得するであろう金銭の所有権ないし占有権を被保全権利とする申立てであることについて何ら変わりはなく、所在場所を限定したことにより被保全権利の適格性が認められるわけではない。したがって、これを被保全権利として相手方の強制執行の禁止を求めることができないことは、前記1と同様であるから、被保全権利の疎明はないというべきである。

なお、本件予備的申立ては、本件仮処分申立てにおける被保全権利の対象である金銭の所在場所を限定したにすぎないものであるから、新たな仮処分申立てと認める必要はなく、したがって、主文において別途却下決定はしない。

四  結論

以上のように、本件仮処分申立てを却下した原決定は結論において相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官小林正 裁判官萩原秀紀)

別紙物件目録〈省略〉

別紙即時抗告申立書〈省略〉

別紙抗告理由書〈省略〉

別紙抗告理由補充書および抗告の変更申立書〈省略〉

別紙主張書面〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例